━─ LRWC ニュース━─━─━─━─━─
※特記以外、引用文中の太字強調及び赤字強調はLRWCによる。
4月1日 †
向後次長の怠慢、公式文書で明らかに †
国土交通省、改善命令を公表 †
改善命令の全文 †
関鉄一第 １ ９ ３ 号
関鉄二第 ２ ３ ６ 号
関鉄安第 ３ ７ ４ 号
関鉄官第 １ ８ 号
平成１８年１１月２４日
銚子電気鉄道株式会社
代表取締役社長 小川文雄殿
関東運輸局長
大藪譲治
安全確保に関する事業改善命令
１．組織の安全管理体制の改善
(1) 安全管理体制の確立
鉄道事業に関する業務管理及び教育・訓練等が適切に行われていないこと並びに施設及び車両に関する保守・管理が適切に行われていないことが確認された。
また、施設及び車両に関する保守・管理については、前回の監査時にも確実に実施するよう指示しているが、実施されていないことが確認された。
これらは、経営幹部が現場の業務運営の実態を把握していなかったことにも大きな要因があると考えられる。
よって、法令等を遵守し経営幹部が安全確保に関し確実にその責務を果たすとともに、組織体制を再構築し、安全管理体制を確立すること。
(2) 教育・訓練体制の確立
列車等の運転に直接関係する作業を行う係員並びに施設及び車両の保守その他これに類する作業を行う係員に対し、作業を行うのに必要な知識及び技能を保有するよう、教育及び訓練を行わなければならないにもかかわらず、本社及び各部門において教育及び訓練等の計画・実施がなされていないことが確認された。
また、列車等の運転に直接関係する作業を行う係員が作業を行うのに必要な適性、知識及び技能を保有していることを確かめた後でなければその作業を行わせてはならないにもかかわらず、長期間にわたりその確認が実施されていないことが確認された。
よって、係員に対し作業の内容に対応した知識及び技能を保有するよう教育及び訓練を行い、また、列車等の運転に直接関係する作業を行う係員には、作業を行うのに必要な適性、知識及び技能を保有していることを確認すること。さらに、これらの教育・訓練等の体制を整備し、確実に実施すること。
(3) 施設等の検査及び修繕等の施行、管理体制の確立
施設の定期検査の未実施、巡回検査の周期超過及び修繕計画の不備等が確認された。
また、車両の定期検査の一部が未実施、列車検査の周期超過であることが確認された。
よって、検査、修繕及びその記録の保存等検査の施行、管理が確実に実施できる体制を整備し、確実に実施すること。
(4) 基本動作の励行及び厳正な取扱いの徹底
笠上黒生駅・仲ノ町駅間は、票券閉そく方式により列車間の安全を確保しており、笠上黒生駅から上り列車を出発させる際には、仲ノ町駅の承認を受けることになっているにもかかわらず、通票の授受のみで列車を出発させていることが確認された。
また、列車の乗務員には、列車の停止を必要とする障害が発生したときのために、列車防護用信号器具（合図灯）を携帯させることになっているにもかかわらず、携帯させていないことが確認された。
よって、列車等の運転の安全確保のために、列車等の運転に直接関係する作業を行う係員が、運転取扱いを厳正に実施し、それぞれの分担する作業を的確に実行できるよう徹底すること。
２ ． 鉄道施設の改善
(1) 踏切道の安全確保
踏切保安設備の踏切遮断機は、列車等の通過後に遮断状態を解除する動作を開始するものとされているが、観音踏切道は列車が通過中であるにもかかわらず、踏切遮断機の遮断状態を解除していたことが確認された。
列車又は車両が通過中に踏切遮断機が上昇することは、踏切通行者等の安全を損なうため、必要な改善をすること。
(2) 施設の総点検の実施、整備計画の策定及び改善
定期検査の未実施、巡回検査の周期超過及び修繕計画の不備等により、次のとおり、保守状態の不適切な施設が確認された。
よって、施設の総点検を実施し、その結果に基づき施設の整備計画を立てるとともに必要な改善をすること。
�� まくら木の腐食、折損及び路盤内への沈下等が各所に見られ、道床の一部が減損している箇所がある。
�� 軌道内に周辺の土砂が流入堆積し、車両の車輪フランジにより押し固められている。
�� レールの継目板部分には、車両が通過する際、車輪フランジ下方に位置する部分に削れた痕跡がある。
�� 笠上黒生駅の分岐器において、バックゲージが規定値を超えている。
�� 笠上黒生駅の夜間用転てつ器標識が腐食により損傷し、機能しておらず転てつ器の開通方向が確認できない状態である。
�� 信号及び踏切保安設備の器具箱に腐食及び穴あきが見られる。
�� 踏切保安装置（せん光灯、クロスマーク及び送着電線等）の脱落及び腐食が多数見られる。
�� 電車線柱、支線の腐食及びレールボンドの脱落等が多数見られる。
�� 電車線の偏いが、レール面に垂直の軌道中心面から２５０mm以内となっていない。（測定値３５０mm以上）
�� 電力司令所と笠上黒生変電所の間において、電力指令電話が使用不能の状態である。
この処分に不服があるときは、処分があったことを知った日の翌日から起算して６０日以内に、書面で国土交通大臣に対して、審査請求をすることができる。
改善命令書の引用・以上
教育・訓練体制に係る命令 †
- 設備面だけではない運輸局の改善命令
周知のとおり、平成18年10月当時の銚子電鉄は極度の資金不足であり、設備が十分に維持できない状態であった。当然に関東運輸局は設備を改善するよう命令しているが、それと同じくらい大きな比重を占めているのが、教育・訓練体制に係る命令である。
改善命令書の１-(2)は、「教育・訓練体制の確立」として次のように命令している(青字部分は改善命令書からの引用文)。
- １-(2) 教育・訓練体制の確立
列車等の運転に直接関係する作業を行う係員並びに施設及び車両の保守その他これに類する作業を行う係員に対し、作業を行うのに必要な知識及び技能を保有するよう、教育及び訓練を行わなければならないにもかかわらず、本社及び各部門において教育及び訓練等の計画・実施がなされていないことが確認された。
また、列車等の運転に直接関係する作業を行う係員が作業を行うのに必要な適性、知識及び技能を保有していることを確かめた後でなければその作業を行わせてはならないにもかかわらず、長期間にわたりその確認が実施されていないことが確認された。
よって、係員に対し作業の内容に対応した知識及び技能を保有するよう教育及び訓練を行い、また、列車等の運転に直接関係する作業を行う係員には、作業を行うのに必要な適性、知識及び技能を保有していることを確認すること。さらに、これらの教育・訓練等の体制を整備し、確実に実施すること。
- 担当者の怠慢
改善命令書は、運転係員や施設・車両の保守係員に対し、必要な知識・技能を保有させるための教育・訓練の計画・実施がなされていないこと、及び運転係員が必要な適性・知識・技能を保有していることの確認を長期間にわたり実施していないことを確認したとしている。
教育や訓練の実施の一部に不備があったのではなく計画自体が全くされていない、というのは間違いなく担当者の怠慢である。
運転係員が必要な適性・知識・技能を有していることを長期間にわたり確認していないというのも信じがたいが、これも担当者の怠慢である。
- 担当者は向後次長
結論を言っておくと、教育の担当者は向後功作氏である。これについて説明するまえに、運転保安に係る重要な改善命令について記載する。
運転保安に係る改善命令 †
- 改善命令書の１-(4)は、「基本動作の励行及び厳正な取扱いの徹底」として、次のように運転保安に係る命令を発している。
- １-(4) 基本動作の励行及び厳正な取扱いの徹底
笠上黒生駅・仲ノ町駅間は、票券閉そく方式により列車間の安全を確保しており、笠上黒生駅から上り列車を出発させる際には、仲ノ町駅の承認を受けることになっているにもかかわらず、通票の授受のみで列車を出発させていることが確認された。
また、列車の乗務員には、列車の停止を必要とする障害が発生したときのために、列車防護用信号器具（合図灯）を携帯させることになっているにもかかわらず、携帯させていないことが確認された。
よって、列車等の運転の安全確保のために、列車等の運転に直接関係する作業を行う係員が、運転取扱いを厳正に実施し、それぞれの分担する作業を的確に実行できるよう徹底すること。
- スタフ扱いの票券閉塞
仲ノ町駅〜笠上黒生駅間は票券閉塞式で、列車を出発させる際には両駅間での打ち合わせと到着駅の承認が必要であるにも拘わらず、通票の授受のみで笠上黒生駅から列車を出発させていることが確認された。つまり、票券閉塞式でありながら、あたかもスタフ閉塞式のような扱いをしていたことになる。
- 着駅承認と正面衝突事故
笠上黒生〜仲ノ町間では、平成7年6月24日に正面衝突事故が発生している。事故の原因の一つは、票券閉塞式の基本である着駅承認をしていなかったことである。事故当時の笠上黒生駅は駅員が不在であり、着駅承認を厳守していれば、仲ノ町駅と外川駅の双方から列車を出発させることは不可能であった。(当時は笠上黒生〜外川間も票券閉塞式であり、外川駅から列車を出発させる際には笠上黒生駅或いは仲ノ町駅の承認が必要であった。)
改善命令は、正面衝突から10年程しか経っていないにも拘らず、しかも笠上黒生駅に駅員を配置していながら着駅承認の原則を守っていないと指摘しているのである。あまりに杜撰であり、この時点で運行停止を命じられなかったのは運輸局が寛大であったからとしか言いようがない。
- 銚子電鉄の閉塞方式
銚子電鉄の現在の閉塞方式は、銚子〜仲ノ町間は自動閉塞式、仲ノ町〜笠上黒生間が票券閉塞式、笠上黒生〜外川間がスタフ閉塞式となっている。タブレット方式などと言われることも多いが、タブレット閉塞機は用いておらず、厳密にはタブレット閉塞式ではない。
タブレット閉塞式(タブレット閉塞機を用いるもの)はタブレットを1つの閉塞区間に多数用意し、うち1つだけをタブレット閉塞機の外に出すことができる。複数以上のタブレットが同時に外に出されることは無い。これに対し、票券閉塞式やスタフ閉塞式では通票或いはスタフを1つの閉塞区間で1つだけ用いる。
タブレット閉塞式およびスタフ閉塞式では、タブレットやスタフを携帯していない列車を出発させることは出来ない。これに対し票券閉塞式では、通票を携帯していない列車でも、通券(発行年月日や列車番号が記載された1回限り有効の運転許可証)を携帯させることにより出発させることが出来る。但し、後述するとおり手順はかなり複雑である。
- スタフ閉塞式の取り扱い
列車を出発させる場合、スタフ閉塞なら簡単である。ただ運転士がスタフを携帯するだけでよく、到着駅との連絡は必要ない。駅員(閉塞取扱者)がいなくとも運用でき、無人の行止り駅での折返し運転も可能である。
- 票券閉塞式の取り扱い
スタフ閉塞式に対し票券閉塞式は手間が多く、かなり扱いが異なる。ここでは笠上黒生〜仲ノ町間で列車を運行させる場合の、笠上黒生駅での扱いについて示す(一般的な票券閉塞式を元に記すため、銚子電鉄の実状と異なる場合がある)。
笠上黒生駅から仲ノ町駅へ向けて列車を出発させる際は、まず笠上黒生駅の専用電話機で仲ノ町駅へ連絡し、列車を出発させることの承認を取る。この際、同一方向へ引き続き運転する列車(以下、ここでは「続行列車」と記す)の有無についても打ち合わせる。承認されたら「列車閉塞区間にあり」と記された閉塞票を電話機に掲示する。
続行列車が無いなら、通票を運転士に渡し列車を出発させる。続行列車があるなら、通票でしか開けられない通券函を解錠して通券を1枚のみ取り出し、閉塞区間両端の駅名、発行年月日、列車番号などを記入して通券を発行する。通券は一列車ごとに発行しなければならない。通券を発行したら運転士に渡し列車を出発させるが、通券を渡す際に必ず通票を見せなければならない。また運転士の側も、閉塞取扱者が通票を示さずに通券を渡そうとする場合、これを受け取ってはならない。
笠上黒生駅を出発した「通券を携帯した列車」が到着したとの連絡を仲ノ町駅から受けたなら、すぐに続行列車を出発させる際は仲ノ町駅の承認を得て、続行列車を出発させる。すぐに続行列車を出発させない際は、電話機に「列車閉塞区間になし」と記された閉塞票を電話機に掲示し、閉塞を解除する(閉塞票は表裏に「あり」「なし」と記載し、引っくり返して使用するのが一般的である)。
笠上黒生駅を出発した「通票を携帯した列車」(この場合、笠上黒生駅発の続行列車は無い)が到着したとの連絡を仲ノ町駅から受けたなら、すぐに仲ノ町駅から列車を出発させる旨の連絡を受ければそれを承認し、列車の到着を待つ。すぐに仲ノ町駅から列車が出発しない場合は、電話機に「列車閉塞区間になし」と記された閉塞票を電話機に掲示して閉塞を解除し、仲ノ町駅からの連絡を待つ。
仲ノ町駅から列車を出発させる旨の連絡があれば、続行列車の有無について打ち合わせた上で出発を承認する旨を伝え、「列車閉塞区間にあり」と記された閉塞票を電話機に掲示して列車の到着を待つ。
列車が到着し、その列車が通票を携帯していれば、これを受け取る。その列車が通券を携帯していればこれを受け取り、直ちに無効化する(通券に×印を記入する等)。
次に仲ノ町駅へ列車の到着を伝え、すぐに続行列車があるなら次の列車の出発を承認する旨を伝え、再び列車の到着を待つ。続行列車や、すぐに笠上黒生駅から出発する列車が無いなら、電話機に「列車閉塞区間になし」と記された閉塞票を電話機に掲示し、閉塞を解除する。仲ノ町駅から来た列車が通券を持っていたなら続行列車を出発させる旨の仲ノ町駅からの連絡を待つが、通票を持っていたなら、次は笠上黒生駅から列車を出発させることになる。
以上は笠上黒生駅〜仲ノ町駅間のみの取り扱いで、笠上黒生〜外川間が票券閉塞であった時代には、同区間についても同じ取り扱いを同時に行う必要があった。このとおり、笠上黒生駅の閉塞取り扱いは大変に複雑である。改めて記すまでもないが、票券閉塞式の取り扱いに係わる駅員や運転士に対しては、十分な教育・訓練が必要である。
- 笠上黒生駅員の教育、座学わずか半日
上記のとおり、票券閉塞式の取り扱いに係わる駅員には十分な教育・訓練が必要である。しかし、笠上黒生駅の駅員は、机上教育半日程度、実地教育1週間程度で単独にて業務に従事していたことが平成18年の保安監査で確認されている。
駅員といっても様々であり、乗客への対応しかしない駅務員などもあるが、ここで言う駅員とは閉塞取扱者としての駅員である。閉塞取扱者の教育は鉄道に係る法令から教える必要があり、複雑な票券閉塞式のほか代用閉塞(保安監査当時の銚子電鉄では指導式及び指導通信式)の知識も身に付けねばならず、とても座学半日では教えられるものではない。
「通票の授受のみで列車を出発させていることが確認された。」という改善命令書の文章を読むと、駅員の怠慢であると捉えがちであるが、そもそも必要な教育が殆んど行われていなかったのである。
教育・訓練の担当者は向後次長 †
銚子電鉄の改善措置状況報告 †
- 下に示す文書は、銚子電鉄が平成19年1月23日付で提出した報告書、「安全確保に関する事業改善命令に対する改善措置状況報告について」の一部分である。文書1および2は、報告書のうち継続する2ページである。
《 文書1 》
《 文書2 》
向後次長の《怠慢な行為》 †
- 次長に係る記載
《文書1》には、教育・訓練体制について、次長に係り下記のとおり記載されている。《文書1》の本文を読めば分かるとおり、「責任者」および「担当者」が指すのは、教育・訓練の責任者および担当者としての次長である(前任者の鉄道主任技術者を除く)。
- これまで責任者である次長に委ね
- 教育メニューが確立されておらず、担当者である次長の判断で行われている。教育担当については、現在の次長の前任者である前支配人兼鉄道部長(鉄道主任技術者)が、この責任者として担当していた。次長は、前任者の負っていた鉄道事業の管理業務を引き継いでおり、会社として教育・訓練担当者として当然引き継がれるべき責務として、次長にその責務を負わせている。
- 会社として、実施状況や係員の状態について、次長からの報告が無かったこともあり、把握していなかった。
- 列車の運転に必要な適性・知識及び技能の修得については、担当者の判断で行われており、この実態に本社としては疑問を抱かなかった。
- 担当者の怠慢な行為
- 教育・訓練については、次長の判断に委ねられている。
- 次長以外に教育を担当する体制がない。
- 保安監査当時の本社組織
鉄道事業の責任者は、安全統括管理者(当時)の鉄道部長であったが、取締役支配人の鉄道部長は総務部長を兼務(当時)していた。報告書は同取締役支配人について「日常作業は事業部の受注管理等の作業が多く、給与計算及び労務管理を担当している」としている。
向後功作氏は鉄道部次長であると同時に、運輸課長を兼務しており、鉄道事業法に定められた運転管理者でもあった。銚子電鉄は平成12年3月に組織改正を行っており、保安監査は組織改正について、「電気及び車両の担当課長を削減し、本社の次長から現業の区長へと直結化を行っている」としている。保安監査当時の組織図では、鉄道部長の下に鉄道部次長があり、鉄道事業の各セクションは全て、次長に一元化されていた。
- 現業 / 運行セクション
鉄道部次長のもとには、駅員や運転士などの運行セクションの長である運輸課長と、土木・電気・車両などの施設セクションの長である工務区長が置かれていた。
向後氏は運輸課長を兼務しており、つまり運行セクションに於いて現業部門の最高責任者であった。改善措置状況報告は運輸課長(次長が兼務)の職務権限について、旧鉄道係員服務規程では「所属員を指揮監督し旅客荷物の運輸並びに運転に関する一切の業務を処理しなければならない」と規定されているとしている。この職務権限の範囲について、報告書は「鉄道部長と次長、運輸課長との間で明確な区分が規定されていなかった」としているが、特に教育・訓練については《文書1》のとおり、次長が担当者であり責務を負っている旨を繰り返し記載している。
向後氏は本社鉄道部次長および現業部門最高責任者の双方として、駅員(閉塞取扱者)の教育に責任を負っていた。
- 現業 / 施設セクション
向後氏は工務区長に直結した上司であるから、施設セクションについても本社次長として責任がある。保線に係る指導者が退職した平成18年4月以降は、保線業務における不明な点について、次長が直接に確認を行って線路工手に回答する立場にあった。線路工手は施設台帳の存在を知らされておらず、台帳は工務区ではなく本社に置かれ、台帳の更新も本社で行っていた。また、国からの通達は本社で一元的に管理されており、現業区まで十分に周知されていなかった。
保安監査によれば、向後次長は車両管理者でもあった。改善措置状況報告は向後次長について、「運行計画・教育計画・鉄道施設・車両等工事計画、規程の企画整備・保管を担当するほか、補助金関係実務等を担当している」と報告しており、車両の修繕等にも責任を負っていた。
後に記述するとおり、保線および車両整備担当者は予備運転士として列車に乗務しつつ、副業(ぬれ煎餅)まで手伝った上でメンテナンスを行っていた。車両の不具合は全て点検時に発見され、平成15年度以降について運転阻害(遅延)を発生させないように整備されていた。一方で、一部外注化されている全般・重要部検査について、幾つか未実施の項目があることが保安監査で指摘されており、大きな検査の手配について、向後次長が適切に行っていなかった可能性がある(3日ごとの列車検査は周期超過以外に指摘は無く、月検査については指摘は無い)。
- 適性検査
適性検査(クレペリン検査)について、向後次長は平成8年度に中級判定講習会を終了しているにも拘らず、長期間に亘り職員へのクレペリン検査を実施しなかった(保安監査後、次長が検査の判定を行っている)。
- 怠慢な態度
《文書1》は教育・訓練の計画及び実施を行わなかった原因を5つ挙げているが、その一つとして担当者の怠慢な行為と記載している。教育・訓練担当者は向後次長であるから、つまり向後次長の怠慢な行為が教育・訓練の計画や実施を行わなかった原因の一つであるということである。
《文書1》、即ち銚子電鉄が運輸局へ提出した改善措置状況報告書に、運転管理者であり運輸課長であり実質的に鉄道事業を掌握する立場である鉄道部次長の職務態度について、「怠慢な行為」などと記載するのは余程のことがあったことの証左である。普通の事業者は要職者の怠慢を監督官庁へ報告することを望まないものであり、にも拘らず報告しているということは、どうしても報告せざるを得なかったということであろう。
- 鉄道の安全に係わる怠慢
教育について、駅員(閉塞取扱者)に閉塞の教育を十分に行わなかったのは、鉄道の安全に係わる怠慢であった。しかも正面衝突事故の僅か11年後のことであり、弁解の余地のない怠慢である。クレペリン検査についても、長期間に亘り実施していなかった。
保安監査や改善措置状況報告では明確に指摘していないが、施設について、総じて状況を把握していなかった。直接には工務区に把握義務があると考えられるが、当時の銚子電鉄は資金面で十分な修繕を行えなかった状況にあり、資材発注や外注が必要な検査・修繕について、工務区だけでは計画や実施ができなかったはずである。現業と直結化している向後次長は、発注の優先順位を判断するか鉄道部長以上に判断を仰ぐため、施設の状況を把握する義務があったが、これを怠っていた。
また、向後次長は運転について教育・指導を行う立場でありながら、自身の運転知識や技能を維持するための必要な努力をしていなかった。改善命令後に乗務員の添乗指導を行ったのは向後次長であるが(「どれどれトーク」で添乗指導している様子が報じられた)、同次長は18年間列車運転をしておらず、ワンマン化された車両の車掌スイッチの扱いに戸惑うなど(本人のブログより)、添乗指導者自身が必要な知識・技能を有していたかどうか疑問が持たれる状況であった。
- 向後次長の怠慢の理由
後に記すが、向後氏は平成15年以降千葉大学へ通学していた。また、それだけでなく、NPO法人を含む市民団体等の活動も熱心に行っており、これらが職務怠慢の原因であると考えられる。
- 向後次長の怠慢に対する対策
《文書1》、即ち銚子電鉄が運輸局へ提出した改善措置状況報告書は原因を5つ挙げ、そのうち4つについては《文書2》で解決策を示しているが、「担当者の怠慢な行為」の解決策については具体的に示されていない。あまりにも情けなさすぎて明確に書けなかったのだろうか。
保安監査後、銚子電鉄は鉄道事業の職務体制を大きく変更した。総務部長と鉄道部長の兼務を解消するため、取締役支配人とは別の取締役を鉄道部長とした。また、安全統括管理者も新鉄道部長に変更され、鉄道部長は鉄道事業専任となった。専任の鉄道部長が次長の業務をチェックする体制となり、実質的に向後次長の怠慢を防止できる体制となっているように見受けられる。
《文書2》では、教育計画の執行体制について「安全統括管理者を責任者とし、特定の管理職が単独で計画の策定と実行を行わない執行体制」を構築するとしており、これを実現するための教育メニュー及び教育・訓練マニュアル等を取締役会の承認を得て策定するとしている。つまり教育マニュアルの作成ですら、次長だけに任せず鉄道部長のチェックと取締役会の承認を必要としており、この面でも向後次長の怠慢を防止できるようになっている。
多忙な銚電職員 †
- 次長の怠慢と要員不足
《文書1》は教育・訓練の計画及び実施を行わなかった原因の一つとして、要員の慢性的不足を挙げている。次長が怠慢な行為を行う一方で、要員が慢性的に不足するほど業務は多忙だった訳である。
- 運転士
《文書2》に記載のとおり、運転士は定員6名に対し保安監査当時は5名であり、1名が欠員となっていた。このほか、保線担当および車両整備担当の4名が補助運転士であり、運転士として列車に乗務していた。
平成17年12月10日改正のダイヤでは、始発が外川5:13発(土日祝は外川6:01発)、終電が外川22:02着であり、平日の運行時間は17時間近い。銚子電鉄は一時間あたり上下4〜6本と頻繁に列車を運転しており、乗務の合間に十分に休憩を設けられる環境ではなく、昼食時等は補助運転士が乗務したとしても、同一の運転士が始発から終電まで乗務すると大変な過重労働となる。このため2交替勤務と考えられるが、2列車が同時運行するダイヤで2交替勤務とすれば運転士は4名必要である。休日の交替要員を含めれば5名が最低必要となり、定員6名が充足していても余裕分を考慮すれば十分な数とは言えない。
特に銚電ブーム以降は総括制御できない2両編成の列車も多く運行されており、この列車は一列車に運転士2名が必要である。《文書2》では運転士1名を補充するとしているが、保安監査以降は労務管理も厳しくなっているはずであり、どうやって運転士をやり繰りしているのか不思議なくらいである。
平成19年1月28日にイベント列車「Ｃ列車で行こう」が運行された際、向後次長が18年ぶり(本人のブログより)に営業列車を運転することとなったが、この頃には補助運転士の線路工手や車両係員は改善命令をクリアするための業務に追われており、運転士のシフトが相当に逼迫していたと想像される。
なお、保安監査によると、平成15年度から17年度の3年間に於いて、鉄道係員(運転士含む)に起因する鉄道事故は発生していない。
- 保線担当者
保線従事員は平成18年3月まで3名であったが、1名退職により保安監査当時は2名であり、1名が欠員となっていた。線路工手は2名とも補助運転士を兼務しており、運転士として列車に乗務したほか、ぬれ煎餅の配達等をしていたことが保安監査で確認されている。
軌間及び水準について、7日に一回以上の頻度で徒歩巡回することになっていたが、一部が10日となるなど、周期超過していたことが保安監査で確認された。これについて銚子電鉄は、「7日を越えない期間毎に行うこととなっているが、巡回検査の周期に運転士の欠員を埋める為の乗務が割って入ることがあり、巡回検査の周期が保てていない。」としており(平成19年1月23日改善措置状況報告)、巡回検査の周期超過は怠慢ではなく、多忙な業務が理由であることが分かる。
- 車両整備担当者
車両係員(車両整備等を担当する車庫長及び技工)は定員どおり2名が従事していた。しかし、2名とも予備運転士(昼食等の交代員)を兼務しており、保安監査で「慢性的な業務能力不足の状態が続いている」と要員不足が指摘されている。また、2名とも副業(ぬれ煎餅)を手伝っていたことが保安監査で確認されている。
「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」のキャッチフレーズから、老朽化車両がすぐに思い浮かぶ銚子電鉄であるが、保安監査によると、車両の不具合は全て車庫内での点検検査時に発見されており、平成15年度以降について、車両に起因する運転阻害(遅延)は発生していない。
また、列車検査の検査周期について、3日を超過している事例が保安監査で確認されているが、その数は直近の1ヶ月間で5件であり、最大でも2日の超過であった。これについても銚子電鉄は、「列車検査において、月検査やその他の検査と重なった場合や、突発的な団体若しくは運転士の欠員を埋める為の乗務が入った時に、周期通りに行われていないことを確認した。」としており(改善措置状況報告)、列車検査の周期超過は怠慢ではなく、多忙な業務が理由である。
- ぬれ煎餅とメンテナンス
上記のとおり、銚子電鉄の鉄道部門は大変に多忙であり、特に保線と車両整備の職員は、各々のメンテナンス業務を行いながら補助運転士として列車に乗務し、さらに副業(ぬれ煎餅)まで手伝っていた。検査周期超過と副業手伝いについて運輸局から咎められてはいるが、向後次長の怠慢とは違い、限度を超えて業務を行っていたことが、保安監査および銚子電鉄の改善措置状況報告で明らかとなっている。
怠慢と熱意 †
大学と市民活動 †
- 多数の活動
向後氏は銚電ブーム以前に、少なくとも以下の活動を行っていたことが確認されている
(なお、NPO銚子ローカル鉄道ネットワークについては2007年7月の記事、NPO銚子発風力情報センターについては2008年7月の記事、その他の向後氏の活動については2007年7月の記事を参照のこと)。
- 千葉大学工学部都市環境システム学科 社会人学生(平成19年卒業)
- NPO法人銚子ローカル鉄道ネットワーク 事務局長(専務理事)
- NPO法人銚子発風力情報センター 理事
- ウェルカムゲート提案者(銚子市制施行70周年記念事業)
- 一新塾(大前研一氏創設の政策学校) 第18期生
- 全国手話通訳問題研究会千葉県支部 運営委員長
- 「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」の制定呼びかけ人の1人
- 銚子市世紀越え実行委員会 市民企画委員
- 銚子手話サークル 会員
- 講演活動(千葉県ろう重複者施設をつくる会など)
- 銚子環境まちづくりセンター アドバイザー
職務怠慢と熱心な私的活動 †
- 遠い大学
1年次、向後氏は銚子から千葉市まで毎日、銚子電鉄での仕事を終えた後に片道2時間かけて千葉大学に通ったという。2年次以降も週に数度通い、同時に数多くの活動(数百万円の助成金を扱う複数のNPOの理事を含む)をしていることから、向後氏本人は忙しい毎日であったろうし、怠慢のつもりもなかったであろう。しかし、その熱意は自身の仕事に向けられることはなかった。
- 向後氏の興味
私見で言えば、向後氏は鉄道という仕事にさほど興味を持っていなかったのだろう。でなければ、正面衝突事故からさほど経っていないのに閉塞取扱者の教育を殆ど行わなかったり、事実上鉄道部門のトップとして施設の状況を把握しないなどということは、怖くてできなかったはずである(鉄道部長は総務部長を兼務し、日常的に受注管理や給与計算、労務管理等を担当していた)。
向後氏は自身が勤める鉄道の安全に関心を払わず、閉塞取扱者に教育をしなければ衝突事故を起こすということにすら思い至らず、設備が荒廃しつつあった銚子電鉄に背を向けて大学に通い、市民活動に打ち込んだ。自身の興味のない仕事には怠慢であり、自身が興味を持つ活動には熱心であった。
- マニアと仕事
ソースは忘れたが、向後氏は自身が鉄道マニアではないと明言していたようであるし、同氏の著作「がんばれ！銚子電鉄」でも、銚子電鉄に関して具体的な改善策は特に示されていない。まちづくりの成功例として6ページ半にわたって長浜を紹介しているが、黒壁プロジェクトを取りあげる一方で新快速効果については全く触れていない。何を書こうが著者の自由ではあるが、鉄道とまちづくりの本で長浜を取りあげておきながら新快速効果に触れていないというのは、意図的に避けているのでなければ、まるで鉄道政策に興味がないかのようである。
よく言われることだが、鉄道マンが鉄道マニアである必要は無い。むしろマニアではないほうが良いとも言われるぐらいであり、普通の従業員として職務に就く方が望ましいと考える事業者は少なくないようである。しかし、鉄道に興味が無い上に職務態度が怠慢である鉄道マンが望ましいと考える事業者は、まず存在しないだろう。
私的活動に熱心なのは自由だが、それは鉄道職員としての自身の仕事を行った上での余暇の範囲で行わなければならないものであった。
- 講演とネット活動
向後氏は講演やインターネット活動に熱心であるが、思わず首を傾げたくなるものがある。事業改善命令が発出された翌日に向後氏がしたことと言えば、「鉄道事業の経営構造の抜本的な改善が必要」などの経営批判をブログで発信することであった(銚子電鉄の日記帳2006.11.25)。
また、平成19年5月15日の向後氏の講演を記した銚子東ロータリークラブの会報(PDF)には、
「仲ノ町〜笠上黒生間：票券閉塞式（通券と通票による方式で、区間に於いて同一方向に複数列車を運行できる。日本国内では、当区間と他一つの2区間だけと言われている。複数運行がない場合は、通券は必要なく、前記のスタフ閉塞式と同じ扱いになる）」と記されている。
票券閉塞区間でスタフ閉塞と同じ扱いをして改善命令を受けたのに、改善措置完了報告から1ケ月も経たないうちに「スタフ閉塞式と同じ扱いになる」などという発言があれば、銚子電鉄の教育担当者は閉塞の重要性について、この程度の認識しかないのかと捉えられても仕方がない。特に会報の冒頭写真は改善命令で厳しい指摘を受けた笠上黒生駅の閉塞取り扱いの光景であり、ご丁寧に「単線安全確保：通票交換」とキャプションを加えているのは皮肉としか言いようがない。
自身の怠慢が大きな問題となった笠上黒生駅の閉塞取り扱いについて、あたかも問題が無かったかのように堂々と講演(或いは寄稿)する向後氏の行動は理解し難い。
怠慢と改善命令 †
- 一部は回避出来た改善命令
既に見てきたように、関東運輸局の改善命令は資金難に伴う施設に係る命令だけでなく、安全管理体制に係る命令や、教育・訓練に係る命令、教育・訓練を怠ったことによる閉塞取扱に係る命令の占める割合が小さくない。また、施設面でも、資金難ではなく管理を怠っていなければ改善命令を回避できた可能性のあるものが幾つか見受けられる。
つまり、向後次長が怠慢でなければ、改善命令の一部は回避できたと考えられるのである。向後氏は銚電ブーム以後も色々な活動に手を出しているようであるが、次回の監査(今週から実施されているとも言われるが未確認)では、怠慢に因る改善命令が無いことを願いたい。
誇りって、なに？ †
- 著作より
向後氏の著作「がんばれ！銚子電鉄」には、鉄道を安全に運行するという仕事には、もちろん、人並み以上に愛着と誇りがありますとの記載がある(P127)。
しかし、改善命令と改善措置状況報告に目を通すと、彼が人並み以上に仕事をしていたとは到底思えない。向後氏の言う「人並み以上の誇り」とは、いったい何を指しているのだろうか？
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